東京高等裁判所 昭和45年(ネ)3140号 判決 1973年9月17日
控訴人
大谷哲平
右訴訟代理人
内藤文質
外二名
被控訴人
星製薬株式会社
右訴訟代理人
飯沢重一
外二名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の昭和四四年一月二三日開催の株主総会における原判決添付別紙第一目録記載の各決議および昭和四五年一月三一日開催の株主総会における同第二目録記載の各決議をいずれも取り消す。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張および証拠関係は、次に付加するほか、原判決の事実摘示と同一<中略>であるから、これを引用する。
(控訴人の主張)
一、複数の株式は数量的に可分であり、また個々の株式は、それぞれ社員権を表章するものとして質的価値的にも同一であり、違産分割の手数を経ず相続分に応じて共同相続人が当然分割相続するものと解しても、相続人間に何らの不利益も生じない。従つて、複数の株式は、金銭債権同様当然分割相続されるものと解すべきである。<以下、省略>
理由
当裁判所も、控訴人主張の被控訴会社の株主資格は認められず、控訴人は本件各株主総会決議取消の訴を提起する権利を有しないものと判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決の理由説示(原判決四枚目裏末尾より二行目以下六枚目裏末尾より二行目まで)と同一であるからこれを引用する。
複数の株式を有する被相続人につき相続が開始し、相続人が数人ある場合、右株式が当然に分割されると解すべきではない。
何故ならば、複数の株式を分割するとしても、一箇あるいは数個の株式を共同所有するという関係は、換価しない限り依然として残存することを認めざるを得ない場合の起り得ることが避けられない(このことは、例えば、一〇〇〇株の株式を配偶者と二人の直系卑属が相続するという場合を想定してみても容易に理解できる。)から、金銭債権とは異なり数量的にも常に可分であるとはいえず、したがつて、複数の株式であつても、可分性を有する財産権とみることはできないのである。
仮りに、各相続人が複数の株式を取得することができ右のような事態は避けられる場合であつたとしても、株券の発行されている本件のような場合(株券発行済であることは当事者間に争いがない。)当該株券に化体された株式が複数であり(これが通常であろう。)かつ、その株券も複数あるときは、各相続人が取得した株式がいずれの株券に化体されているのか確定できず、そのままでは株式の移転も譲渡もできないという不都合な事態が生ずる。相続人の相続分に対応する複数の株券があり、各株券記載の株式数が同数であるという極めて稀な場合であつても、ある相続人の取得すべき株券については、他に権利を主張するものの出現することもあり得るのであつて、当然に株券がそれぞれ各相続人に帰属することとなると相続人に利益の均一性を欠くおそれがある。<以下、省略>
(綿引末男 福間佐昭 宍戸清七)
<参考>原判決の主文および控訴審判決理由中の原判決引用部分。
主文
原告の訴をいずれも却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
理由(引用部分のみ)
原告が大谷米太郎から相続によつて被告の株式一万九、六八〇株を取得した株主であるとして本件各訴を提起していることは明らかであるところ、右大谷が被告の株式八万八、五六〇株を所有していたこと、同人が昭和四三年五月一九日死亡したこと、原告が同人の相続人であり九分の二の法定相続分を有することは当事者間に争いがないが、原告の主張に照らすと右大谷の相続人は原告を含めて数人存在することが認められるので、まず、相続財産たる右大谷の株式が共同相続人にどのように帰属するかについて按ずるに、原告は右株式は当然分割され各共同相続人がその相続分に応じた数の株式を取得する旨主張していると解されるが、株式は可分給付を目的とする債権とは解し難いからこれについて共同相続が開始した場合各共同相続人がその相続分に応じた数の株式を承継するとは断じ難く、共同相続財産たる株式は相続人全員に共同的に帰属し、各相続人はこれにつき相続分に応じた持分を取得するにすぎないと解するのが相当である。したがつて、原告の右主張は採用できず、他に特段の事情の認められない本件にあつては、原告は前記大谷の所有していた被告の株式につきその相続分に応じた持分を有するにすぎないというべきである。ところで、このように株式が数人に共同的に帰属するときは、その株式について会社に対し株主としての権利を行使するためには、右数人において株主の権利を行使すべき者一人を定めこれを会社に通知しなければならず(商法二〇三条二項)、会社に対する関係における株主としての諸権利はすべてこの者に限つて行使することができ、他の者は、これを行使し得ないというべきところ、株主総会決議取消の訴を提起する権利が右の権利に含まれないと解すべき格別の理由も見出せない。しかるところ、弁論の全趣旨によれば、前記大谷米太郎に属していた株式についてその共同相続人間においていまだ株主の権利を行使すべき者を定めていないことが明らかであるから、これにつきその相続分に応じた持分を有するにすぎない原告は株主として本件各訴を提起する権利を有しないといわなければならない。本件においても窺われるように、共同相続人相互間に利害の対立があり相続株式につき権利を行使すべき者を定めることが事実上困難な場合には、相続人の一人が株主としての権利を行使しようとするにはまず相続株式の分割を求めなければならず、そのため株主総会決議に瑕疵があつても直ちに職務執行停止・代行者選任の仮処分を申請するなどの措置をとり得ないという不都合が考えられないではないが、そのゆえをもつて前記条項による明文の規定に反してまで持分権者の状態のまま株主としての権利を行使し得ると解することはできないし、また、決議取消の訴を提起することをもつて民法二五二条但書にあたる株式の保存行為とみることも困難である。
以上の次第で、原告の主張する株主資格はこれを認めることができず、原告は本件各訴につき原告適格を有しない。
(東京地方裁判所民事第八部)